JUN KOBAYASHI

気の向くままに赴くままに地球をふらり

ゲストハウスで働くということ

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ひょんなことから山梨県は河口湖町にあるkagelowというゲストハウスで働くことになった。

 

当時の私は留学から帰国してまもなくのしがない大学4年生で、就職活動なんて毛頭1ミリもするつもりもなく、かといって特に打ち込むこともなく、なんとなく、ただなんとなく世界一周を夢見ていた。
やることと言えば実家の犬の散歩と朝まで飲み散らかす無益な飲み会ぐらいで、とにもかくにも暇を持て余していたのだ。

 

 

そんなもんだから、河口湖のゲストハウスで働ける!となって、わりと、というよりむしろかなり、嬉しかったのを覚えている。

そんなこんなで私の河口湖での隠居生活は始まった。

 

 

最初のゲストはどこの国の人だっただろうか。フランス人の仲睦まじいカップルだったか、それともタイからの陽気な団体客か。はては名前も知らない国の孤独なバックパッカーだったのか。

 


正直に話そう。まったく覚えてない。見当もつかない。

 

 

まったく見当がつかない程数多くの国から何千人ものゲストがkagelowを訪れたのであるからしょうがあるまい。と記憶力の無さを棚に上げ自分自身を正当化してみる。

 


自分自身を正当化する大人になんかなりたくないなと高校生ぐらいの頃漠然と考えていたのに、いつのまにか歳をとり汚れた大人になってしまったみたいである。

 

 

そんなことはさておき、オープンから約1年で計42カ国約1万人の外国人観光客が、人口2万6000人程のうどんと富士山しか取り柄のないような小さな町のゲストハウスを訪れた。(とても失礼)これは多分驚くべきことだと思う。

河口湖町の名誉の為にも付け加えておくが、名物の吉田うどんはバカがつくほどうまく、四季折々の美しさをもった河口湖から眺める富士山は絶景である。

 

 

 

千葉生まれ味噌ピーナッツ育ち、近所のお坊ちゃんお嬢ちゃんはある程度友達!といった環境でぬくぬくと育った自他共に認めるシティボーイの私には正直、この町の何がそんなにも魅力的で多くの外国人観光客がこの町を訪れるのか甚だ疑問であった。だってうどんと富士山しかないんだよ?(何度もごめんなさい)

 


しかしながら働くにあたって、この町について無知であるわけにもいかないので、近所の本屋さんでガイドブックを読み漁ってみたり、天下のGoogle先生に質問してみたりと奔走してみたものの、いまいちピンとこない。なにがそんなに素晴らしい町なんだろう?と、ぼんやりとした疑問を抱えたまま家と大学とバイト先と河口湖を往復する日々。

 

 

 

ところで Kagelowで始まる朝が好きだった。朝8時に起床し、事務作業を片手間に終わらせ、シガーロスを聴きながら、思い思いに朝支度をはじめる様々な国の人たちを眺めるそんな朝。

タイの人たちは朝から賑やかに食卓を囲み、フランスの彼と彼女は仲睦まじく朝ごはん作っていたりする。死にそうな顔をしながら二日酔いに苦しむオーストラリアンもいれば、朝から陽気に笑いあうスパニッシュもいる。

相反する文化、慣習、言語、時間が緩やかにせめぎ合い混ざり合い、見事な調和をなしていて。
そんなしっとりした優しい時間がkagelowという空間には流れていた。
なんて贅沢な時間を彼らと共有していたんだろう。と私が気付くのは、悲しいかな、旅に出た後なのだが。

 

 

 

仕事の話に戻ろう。
大石公園から眺める富士山が綺麗だよーとか、カチカチ山のロープウェイ登ってみたら?とか、湖畔をロードバイクでツーリングするのもおすすめだよ!とかどこどこの温泉が大きくて気持ちいいみたいだよ!(実は何も知らない)と、一端の地元民ぶりながらゲストに観光プランを提供し、満面の笑みで彼らを送り出す。実に調子のいい人間である。

 

 

帰ってきて文句言われたらどうしようと、一抹の不安を抱えながら業務に戻り、彼らの帰りを待つ。そしてしばらくして夕方ぐらいになると1人、また1人と帰ってきて、他愛のない雑談が始まる。

 

 

「〜から見る富士山が本当に綺麗だった。ありがとう!」とか「色んな温泉行ったことあるんだけど、河口湖の温泉は最高ね!」だとか「空気も景色も綺麗の中ツーリングできて良かったよ。」などなど。

 

 

 

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そんな彼らの話を聞いて「あー良かった」とホッと胸を撫で下ろし、それと同時になにも知らなかった自分を恥ずかしくも思う。そして河口湖の町の姿を彼らから学ぶのである。
河口湖って素敵なところなんだな。と。

 

 

日本という国、日本人に関しても同じことが言える
私は彼らからたくさんの美しい日本の名所を教えてもらったし、心温まるストーリーを聞かされもした。

 


それは例えば、私がまだ行ったことのない日本の神社仏閣の話だったり、電車が時間通りに来ることへの驚きだったり、失くしたパスポートが見つかった話だったり、道に迷っていたら通りすがりの人が目的地まで送ってくれて涙した話だったり。

 

 

日本人からしたら、そんなにいいとこなの?とか、そんな驚くことじゃないじゃん。って話ばかりなのだが、彼らにとってはそうではなくて。

 

 


彼らにとってはこの国で起こるすべての出来事が新鮮で驚きに満ちたものであるのだ。

私はそんな彼らの話を聞きながら、「うんうん、へー!」とアホみたいに相槌を打ち、耳を傾ける。

 

 


日本という国を日本人という人間を彼らから学び、彼らが切り取ったその瞬間、その風景に、日本の美しさ、日本人の精神性を色濃く見て、私は嬉しく思うのだ。

 

 

私が、 Kagelowを訪れた彼らの中に日本という国を、日本人の精神性を見たのと同じように、私が旅の最中に出会う人々は私の語るその言葉に、私の黒くつぶらな瞳に、彼らの国を、彼らの精神性をそこに見出すのであろうか。

 

 

そんなことを考えながら私は旅を続けている。