JUN KOBAYASHI

気の向くままに赴くままに地球をふらり

シャワーの水圧と温度と女の子の相関性

そろそろ帰りの航空券を買おうかなと考えはじめた。

旅に満足したからっていう理由ではなくてお金が底を尽きたからというなんとも情けなくおれらしい理由だ。

 あとちょっぴり日本が恋しいってのもある。正確に言うと寿司とラーメンと千葉ニュータウンとモカ(愛犬)とAカップのあの子が恋しい。

 

それでも帰りの航空券を買おうかなと悩み始めてもうすぐ2週間ぐらい経つ。

 

その2週間何してたのって聞かれるととても困る。なにしてたんだろうおれ、あんまり覚えてない。

広場の工事の音で目を覚まして、おはようと同時に誰かと乾杯して、気の抜けたビールで食べかけのサンドウィッチを流し込んで、地元民で賑わう炎天下の公園を歩く。

 

これといって何も特別なことはしてないけど、こんな生活がたまらなく愛おしい。

 

帰りのチケットを買うということはこの生活に見切りをつけるということだ。こんなに悲しいことはない。

 

これは留学時代好きだった女の子が先に帰国してしまった時と同じぐらい悲しい。あの時言えなかった言葉は喉に刺さったアンチョビの小骨みたいに今も胸でチクチクしてる。

 

(バルセロナで再会したくせに気の利いたことは何一つ言えなかったおれですはい)

 

浴びるほど酒飲んで、吐いて、記憶なくして、首筋に得体の知れないキスマークと右腕に長さ15センチぐらいのミミズ腫れがあることに朝気がついて、もっかい吐いて、腹も下して挙句の果てに全身の倦怠感と寒気という風邪特有の合併症も併発してっていう生活を初子(お母さん)に見られたらものっくそ怒られるに違いないな。なんてことをぼんやりと脳内で反芻しながらぬるいシャワー浴びる。

 

あ、そういえば最近人に怒られることってないなとか思うし、怒ってくれる人がいるうちは幸せだなんてどっかの閉経間近のクソばばあが言ってたけど、たしかにそれもあながち間違いではないなと最近思うようになった。誰かおれを怒ってください、罵倒してください。トイレと部屋を日がな一日行ったり来たりするおれを罵詈雑言でけなしてください。 

 

(そしてケツ拭くたびにヤスリでケツ拭いてんのかってぐらいセンシブルになってしまったおれのケツを優しく労ってくださいお願いします) 

 

今回の旅で学んだ一番大切なこと、それはシャンプー代はケチるなってこと。1ドルとかで売ってるやつ使って秒で後悔した思い出。ガッシガシのおれのロングヘアーよさらば。排水口にたまる髪の毛たちを見てガダルカナル島で散っていた英霊たちの無念を思う。女子たちはいつもこんな恐怖と戦っているのかと思うと頭がさがる思いだ。

 

そう、だからおれはおとといパンテーンのシャンプーを買った。なんてエレガントな響き。6ドル。宿一泊分。ファッキンエクスペンシブメーン。サラサラヘアー最高サンクスメーン。

でも使ってびっくり、昔付き合ってた女の子の匂いがした。そしてなんだかその子に心臓を四方八方からボールペンで刺されたようなような痛みと、後ろから抱きしめた時の首筋から香るニホイがとても好きだったなぁだなんて甘い思い出が瞼の裏の脳内スクリーンにこれでもかってぐらい連続再生されて、これからシャワー浴びるたびに彼女のこと思い出さなきゃいけないのかよとか思ってやりきれなくなる。くそっ、目に泡入った。痛ぇ。もう甘いのか痛いのかわかんねぇ。風邪引いてるくせにダラダラぬるいシャワー浴びてるから風邪も治んないんだよな、反省。

 

それにしても匂いはテロだよ。ISISもびっくりするぐらい極悪非道のテロリスト集団だよ。

やつらは人の記憶の最深部の埃かぶったチンカスみたいな思い出ですら、鮮明な風景と質感を伴って脳を揺さぶるんだものね。そんなのだれも頼んでないのにね。思い出した時彼女はそこにいないのにね。

 

そういえばシャワーと女の子って似てるよなーと思う。

束縛が激しい子は熱湯シャワー

会話が成立しない女の子は温度調節が難しいシャワー

色気がない女の子はぬるいシャワー

冷水シャワーは口が悪い女の子

水圧が強いシャワーはキスの最中に唇を噛む子

 

自分好みの女の子を見つけるのが難しいように旅中パーフェクトなシャワーを見つけることは不可能に近い。

 

そりゃもう海外にはありとあらゆる種類のシャワーが存在する。

 

はじめは熱湯なのに2分後に真水に戻るシャワーってのもある。(このパターンが一番嫌いだ。思わせぶりな態度とっといて急にLINEぶちるなっつーの)

 

水圧は抜群だけど極寒冷水シャワーってのもある。(これはなんだか嫌いになれない)

 

水圧抜群の極寒冷水シャワーは口が悪くてキスが下手くそな不器用な女の子だ。

 

付き合ってるときは、なんでこんな女の子と付き合ってんだろってなるけど、別れてみるとあら不思議。不器用なキスが恋しくなったりする。

 

それは極寒冷水シャワーを浴び終わった、身体の芯からなんだかポカポカしてくる感覚と似ている。

 

そんな感覚はむしろ心地よい。目がシャキッとしておれ今日無敵最高岡田将生!ってぐらい爽やかイケメンになった気がする。そして普段はあんまり食べれない朝ごはんもたくさん食べれる気がしてくる。

 

違うか。

 

シャワーの良し悪しが気温に左右されるのと同じように、好みの女の子、付き合う女の子は自らの精神状態に左右される。健全な彼女は健全な男子に宿るのだ。

それは裏を返せば、あの女まじ最悪!乳首黒いくせに調子乗りやがって!とか言ってるやつはそいつ自身にも問題があるってことだ。

昔付き合ってた彼氏彼女のへの不平不満は自らに対するブーメランであることをお忘れなく。(女子もまた然りだぞ。あいつまぢエッチ下手だったとか言ってる暇あったら、お前ほんと早漏だな童貞かよクソ野郎っていう思いをオブラート包んでそいつに伝える術を磨きやがれ。たぶん全男子から感謝されんぞ)

 

何はともあれあなたが掴んだそのシャワーが素敵なものでありますように。

 

なんの話だったけ、あぁそうだ。帰りのチケットを買うに買えない話だ。ここまで長くなってしまった。

 

金も時間もないくせになにかと理由をつけてチケットを買わないのは、なんでだろ。

たぶん怖いからなんだろね。自由な暮らしを捨てることの恐れ。大人になることの恐れ。真っ当な人生を歩むことの恐れ。そうして明るみに出るであろう自分の弱さと対峙することの恐れ。そんな感情と向き合うことはたまらなく恐ろしい。逃げ切れるもんなら人生ずっと逃げ続けたい。逃げ足徒競走ではぶっちぎりで一位取る自信あるんだけど、そんなもの現実世界では1ミリも役に立たない。

 

そうかー逃げることはもう辞めにしなきゃいけないのか。無念。

 

考えてみれば今までの人生逃げてばかりだった。

児童会の執行役員。(野口先生ごめんね)ピアノの発表会。(仮病でレッスン休みまくってごめんね)入試。(市進の田中はまじ許さん)好きだったあの子。(もはや何してんのかも知らんわ)ダブルフォルトを積み重ねて負けたあの試合。(ガンディー元気かな)降りかかる責任と重圧。(責任転嫁ばっちこい)

 

あー。そんなもんからおれはずっと逃げ続けていた。たぶん人目にはそう映らなかったと思う。なんかあってもおどけてヘラヘラしてみせるのは得意だったから。ほんとはすんごい悩んで傷ついてたくせにね少年

 

でも最近思う。

にんにくマシマシこってこてのもつ鍋みたいな消化しようとしても消化しきれない後悔、焦燥、不安、恐れみたいなものと逃げないで向き合うのも悪くないなって。

そんな感情を抱えながら生きるのはきっとそんな悪いもんじゃない。苦くて、酸っぱくて、しょっぱくて、少し甘みのある、そんな搾りかすみたいな思い出とも感情とも言い切れぬ存在がその人らしさを作っていくんだなと思うようになった。

 

そう、だから彼女に伝えたいこと伝えられなかった時胸に刺さったアンチョビの小骨も大事にして生きていこーって思う。

 

おれの敬愛する草野マサムネがこう言ってた。

 

「ずるしーても ま じーめにも いきてーいけーる きーがしたよっ」て。今になってこの歌詞の意味がすごいしっくりくる。

 

どんな生き方したっていいんだよね、きっと。

ぐらーしあすマサムネ。

 

徹底的な同調圧力に基づく相互監視社会の一歯車となって身を粉にして働く覚悟はまだできてないけど、んーそーだな、なんだか日本帰る気力が湧いてきた。大好きな人たちとへべれけになるまでうまい酒飲みたいしね。

 

よし、明日頑張って帰りの航空券取ろっと。

 

そんな感じでおしまいおしまい