JUN KOBAYASHI

気の向くままに赴くままに地球をふらり

ティアドロップのおじいさん

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約250キロに及ぶ巡礼を終えてサンティアゴ・デ・コンポステーラに着いた日の翌日、地元民で賑わう気取らないバルでビールを飲んでいたら、古めかしいティアドロップのサングラスをかけた老紳士に話しかけられた。‬


‪世界を周ってる旅の途中なんだって話をしたらなんとなく意気投合して、一緒に飲むことになった。

聞けばイギリスの生まれで、もう長いことスペインで暮らしているようだった。歳は聞かなかったけど、第二次世界大戦が勃発する少し前に産まれたって言ってたからたぶん1930年代の産まれだと思う。1930年代のヨーロッパと言えばドイツでナチスが政権を握ったり、スペイン内戦があったりとキナ臭い時代だったと記憶している。私の好きなロバートキャパやヘミングウェイが活躍したのもこの時代だった。

 

そんな時代に産まれたおじいさんと並んで酒を飲んでいるのが妙に心地よかったのを覚えている。

 

‪彼は日本の文化だったり東洋思想に精通していて、わりに、というかかなり驚かされたんだけど、

 

そんな彼に何でこの世界に生を受けたんだと思う?って質問してみた。

 

(12日間も歩き続けていたからいらんことをよく考えていたんだね。その時は人が産まれた意味とか生きる意味とかをわりと真剣に考えていた)

 

そしたら彼はこう言った、父ちゃんと母ちゃんがmake loveした結果だよ。って‬。

 

‪正直笑っちゃったけど、彼はこう続けた。じゃあ私から質問だ。どうして彼らはセックスしたんだろう?

「愛があったから」私はこう答えた。じゃあ愛ってなんだろうか?抽象的な言葉ではぐらかせない絶対的な何かで説明してくれ。彼は立て続けに質問した。

 

‪うまい答えが思い浮かばなくて、答えに窮していたら、彼はこう続けた。「その意味を理解することがこの世に存在を受けた意味だよ」って。そうか、愛とは何かを理解しようとすることが生きる意味なのか。そうなのかもしれない。そんな気がした。‬

 

‪「おじさんはその愛とやらを見つけたの?」

 

彼はニコッと何も言わずに頷いた。それ以上私は何も聞かなかった。それで満足だった。

 

そしておじさんは私の分のお会計も済ませて店を出て行った。‬

 

真っ赤な夕焼けを浴びて輝くサンティアゴの街並みを歩いて宿まで戻る帰り道、おじいさんがこの後、孫の家に遊びに行くんだって嬉しそうに話していたのをふと思い出して私はなんだか満たされた。

 

たぶんその日私は世界で二番目に幸せだった。おじいさんの次ぐらいには。